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活動報告3_学祭販売冊子 AnfANg vol.1

富山県立大学文芸サークルです。

当サークルでは、2018年に創設以来、毎年大学祭にて部誌『AnfANg』を頒布しております。

先日の行われた大学祭でも、新刊・既刊ともに多くの方に手に取っていただくことができました。

そして、お陰様で2018年発売『AnfANg vol.1』が完売いたしました。

完売御礼、そして発売から5年以上経過したということで、今回ブログにて再録させていただこうかと思います。

どうぞ、お楽しみくださいませ。

 

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AnfANg

目次 1ページ目 海山も隔たらなくに何しかも目言をだにもここだ乏しき 3ページ目 両想いの対処法  33ページ目僕だけが知っているあなたの秘密



 

 

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以上となります。ご覧いただきありがとうございました。

初めての『AnfANg』である今作、お楽しみいただけたでしょうか。

次回は『AnfANg vol.1』と同時に配布された、リレー小説をお届け予定です。

ありがとうございました!

 

Hana

 

 

活動報告2_朗読用文章の作成2

境界の向こう側

 

ソーラーパネルとりつけるのに68万かかるらしいよ」

「どうした? いきなり」

 

 桃花は帰宅後、ただいまも言わずにいきなり言った。急にソーラーパネルの話なんかしてどうしたんだろう? ちなみに私の家にソーラーパネルはついてないし、これからつける予定もない。

 

「あのね、今日社会で習ったの! ソーラーパネルとりつければ、自分の家で電気作ることができるんだって」

 

 桃花は興奮気味に話す。あ、これはきっとアレだな。

 

「だから、私たちの家にもソーラーパネルつけたい! とでも言うつもり?」

「何で私の考えていることが分かるの!?」

「だって、3年間お姉ちゃんやってますし」

 

 やっぱり、私の考えは正しかったようだ。桃花は私の思っている小学3年生よりもずっと純粋だと思う。

 

「流石、お姉ちゃん!」

 

 純粋無垢に笑う桃花を見て少し心が痛くなる。この子と会って3年間。そう、私達は実の姉妹ではない。桃花はお母さんの連れ子なのだ。しかし、桃花はそんなことを感じさせない位私をお姉ちゃんと慕ってくれた。いきなり一緒に住み始めた高校生なんて、どう接すればいいか困惑するだろうに、最初からこの調子だ。何なら「私にお姉ちゃんが出来ると思わなかった! 嬉しい!」って喜んでいた。

 

「ところで今日の宿題はもうやったの?」

「まだ! お菓子食べてからやる!」

 

 何となく調子が狂って話題を逸らす。帰ってきたばかりで宿題やれるわけないだろうに、そこを疑問に思わないのも無邪気だなあと思う。私が小学3年生の頃もこんな感じだったのだろうか? 疑問には思うけど、それも個性だろう。

 

「今日のお菓子はお母さんがクッキー焼いてくれたよ」

「わーい! お母さんのクッキー大好き! 今日は何の味かな」

 

 桃花はその言葉を聞き、冷蔵庫に向かって走っていく。マンションだったら下の人に迷惑を掛けそうなほどドタバタと。一軒家で良かった。

 

「ココアと普通のだった! お姉ちゃんはもう食べた?」

 

 キッチンから桃花が問いかける。

 

「まだだよ、一緒に食べよう」

 

 私は食べられないように即答した。

 

  •     *

 

「ごちそうさま!」

「ごちそうさまでした」

 

 桃花はココア、私は紅茶を飲み終わり、クッキーのお皿とマグカップをシンクに持っていく。これくらいならすぐに洗い終わるし、今から洗うか。お母さん、今日はノー残業デーだったから早く帰ってくるだろうけど、流石にこのままにしておくのは忍びない。

 

「ねー、お姉ちゃん」

「どうしたの?」

「うーん、何でもない。ただ呼んでみただけ」

 

 カウンターに乗り出してこっちに問いかけてきたので目線を上げたが、特に用事はないらしい。時々、こういう時がある。「お姉ちゃん」の響きが好きなのだろうか。私は視線を落として食器洗いを再開する。何となく気まずい沈黙が流れる。いつもこうだ。友達同士の沈黙はそこまで気にならないのに、桃花との沈黙は重い空気になっている感じがする。いつも天真爛漫で賑やかだから違和感があるのかもしれない。

 

「宿題、やっちゃいなよ」

「うん! 今日は国プリと計ド! 音読はお姉ちゃんが聞いてくれる?」

「いいよ」

 

 桃花は元気よく宣言して乱雑に放置されたランドセルに駆け寄った。ランドセルは3年間しか使っていないはずなのに、すごく年季を感じる。

 

「先に音読終わらせる!」

「どうぞ」

 

 毎日の日課になっている桃花の音読。お母さんが仕事の時はいつも私がサインしている。しばらく聞いていた物語ではなく、評論に代わっていた。それにしても音読大変だよなあ。

 

「終わった! ねえ、今日の音読どうだった?」

「いつも通り良かったよ」

 

 私はそう言いながら、保護者欄に「上手でした」と書く。

 

「他の宿題もやりなさい」

「お姉ちゃん、お母さんみたい」

 

 しょうがない、年が離れているんだから。しかも保護者のサインもよくするし。

 

「お姉ちゃんの宿題は?」

「私も今からやるよ」

 

 何て言ったってあと3カ月もしたら大学受験だ。第一志望は、寮がついている県外の大学。学力的には少し足りないから追い上げないと。お父さんからは県内の大学でここから通えばいいじゃないかと言われるが、正直継母と義妹がいる家は居づらい。だから、出来るだけ帰ってこなくてもいいような往復8時間位かかるところを選んだ。あと、私は生物が好きだからそれについて学べるところ。

 

「お姉ちゃんの宿題、難しそうだね」

 

 桃花が横からのぞき込んで言う。

 

「まあ、高校生だからね」

「私も高校生になったら分かるようになる?」

「なるんじゃないかな。ほら、ちゃんと自分の宿題やりな」

「うん!」

 

 しばらく黙々と、互いの筆記具を動かす音だけが室内に響く。お母さんが帰ってきた、17時半位までそれは続いた。

 

「ただいま~」

「おかえりなさい!」

「おかえりなさい」

 

 桃花はお母さんが帰ってくると一目散に玄関に向かった。珍しい、いつもはこっちにいるのに。少しするとお母さんもダイニングに来る。

 

「美雪ちゃん、偉いわね~、ちゃんと勉強していて」

「もうすぐでセンターだから……」

 

 お母さんは、桃花の騒がしさとは対照的でゆったりしている。冷蔵庫に荷物を入れ始めるのを見て、私は先ほどまで使っていたテーブルを拭いた。今日はお母さんが食事当番の日だ。それぞれが食事当番の時はその人に全面的に任せると決めてある。ちなみにお父さんはカップラーメンと目玉焼き、ハムやウィンナーを焼くぐらいしかできないので基本的に私かお母さんで回している。

 

「お母さん、今日のご飯は何?」

「トマトソースのロールキャベツだよ~。美雪ちゃん好きでしょ?」

「あ、はい」

 

 確かに私の大好物だ。よく覚えていたな。

 

「私も一緒に作る!」

「まあ、今日だけね」

 

 桃花の反応にお母さんは驚いたようだったが、何か納得したように笑った。

 

「私も手伝いましょうか?」

 

 ロールキャベツは美味しいが、すごく大変だ。そう思って声を掛けたが、

 

「大丈夫、美雪ちゃんは座ってて」

「お姉ちゃんの分まで私、頑張るよ!」

 

 桃花は任せとけ! とでも言うように胸をたたいた。

 

  •     *

 

「ただいま」

 

 ロールキャベツが出来たタイミングでお父さんが帰ってきた。

 

「あなた、丁度出来たのよ」

「私も一緒に作ったんだよ!」

 

 お母さんと桃花が鍋の中のロールキャベツを見せる。トマトの匂いがふわっと香った。何だか、私がいない方がいい家族みたい、だなんて。

 

「美雪、これ」

 

 不意にお父さんが袋を渡す。

 

「え?」

 

 いきなりのことに私は戸惑った。

 

「お姉ちゃん、誕生日でしょ!」

「あ」

 

 そういえばそうだった。再婚してからお父さんもお母さんも忙しそうで誕生日当日に祝ってもらったことないから忘れていた。

 

「ありがとう」

「お姉ちゃんに喜んでほしくて、私も料理頑張ったんだよ!」

 

 桃花が誇らしげに胸を張る。

 

「ありがとう、桃花」

 

 その瞬間桃花は弾けたように笑った。

 

「久しぶりに名前を呼んでくれた!」

 

 考えてみれば、最近桃花の名前を呼んでいない気がする。最初の1か月は気を遣っていたけど、それから先は何となく呼びにくかった。

 

「美雪お姉ちゃん、これ私からのプレゼント!」

 

 桃花は近くの文房具屋さんのラッピングを渡してくれた。

 

「頑張って選んだから使ってね!」

「あと、私からはこれ」

 

 最後にお母さんが少し大きめのプレゼントをくれた。

 

「勉強することも多いから、クッションあったら便利かなって~」

「ありがとう、ございます」

 

 驚きすぎて言葉が出ない。

 

「さあ、ご飯食べよう。お母さんが作ってくれたロールキャベツが冷めちゃうぞ!」

「お父さん! 私も一緒に作ったよ!」

「そうだったな、すまんすまん」

 

 さっきまで、私がいなくても完成していると感じていたが、今は違うと分かった。私が線を引いてたんだ。少し深呼吸をした後で私は、

 

「お腹空いたから早く食べよう」

 

 とその輪に加わった。少し、ぎこちなかったかもしれないけど、皆は当然のように迎え入れてくれた。

 

 

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前回に引き続き、朗読用に書き下ろした文章をお送りいたしました。

朗読用のものはこれで以上になります。

このブログでは、活動報告の他にも、このように作品を載せていく予定です。

お読みいただきありがとうございました。

 

Hana

お知らせ_10/21(土),10/22(日)学祭に出店します!

富山県立大学文芸サークルです。

 

例年通り、今年も富山県立大学の学祭に出店します。

今回の新刊はこちら!

 

 

可愛らしいうさぎの獣人たちが目印です!

今回は部員4名の作品を収録しております。

 

N203にて

1冊100円で販売しております♪

 

既刊も何冊かご用意しています。

こちらも1冊100円です。

 

新刊については、入口にサンプルを置いています。

 

お気軽にお越しください☺️

 

Hana

活動報告1_朗読用文章の作成1

散歩

 

 私は時計を二度見した。珍しく目覚まし時計よりも早く起きれた。いつもなら二度寝しようと思うけど、なぜだか久しぶりに早起きしてもいいかなという気分だ。思い切ってカーテンを開けると、まだ7時前なのに元気よく何人かの子供が走っている。ランドセルを背負っているわけでもないから遊びに行くんだろう。もう夏休み期間だろうか。そんなことを考えつつ、ぐーっと伸びをしてから冷蔵庫に向かった。

大学生になってから一人暮らしを始めた。最初の頃は、自炊を頑張っていたが、4ヶ月も経つと飽きてしまい、冷蔵庫は飲み物を冷やすだけの置物になっている。あと、調味料がちょっと残っているくらい。起きた後は喉が渇くから冷蔵庫の中に入っているお茶を飲むのがいつものルーティンだ。あ、お茶新しく買わないとなくなりそう。残り少しとなったペットボトルを冷蔵庫に戻し、ぼんやりする。小学生も夏休みだが、私だってテスト期間を必死に乗り越えて夏休みを手に入れている。しかも小学生と違って課題はないから2ヶ月も自由だ。まあ、自動車学校行くからそれに追われそうだけど。それにしても、今までテストで頑張りすぎたからか燃え尽き症候群みたいになってる。これは良くない。気晴らしに散歩でも行こうかな。

 突然だが私は散歩するの、というか歩くのが好きだ。目的もなくフラフラ歩くのが特に好き。しかも、私は基本的に道に迷うことがほぼない。適当に歩いても日が暮れるまでには自分の家に着くことができる。頭も運動神経も平凡な私だが、これだけは特技だ。

「よし、散歩しよう」

 何となく声に出してしまう。高校の時、先生が一人暮らしすると独り言が増えるって言ってたの本当かもしれない。実家にいた時は毎日話していたから、何も話さないのは変な感じがするのだ。

 私は、衣装ケースを開けて今日の服を取り出す。正直、そこまでファッションに興味がないので、大体安価で買える無難なものしかないし、組み合わせもそこまで考えないからこの作業はすぐ終わる。今日は一番上にあった薄い水色のシャツワンピ。夏らしく涼しげな色合いだから、見た目だけでも涼しく見える。ただ、これだと若干寂しいので申し訳程度に黒いベルトを着ける。あと、日光に当たるから日焼け止めを塗って、ちゃんと帽子も被らないと。服装はどうでもいいが、20年後に来るシミ・そばかすは怖い。ついでにメイクもしようかな。テスト週間は日程が鬼畜過ぎてメイク落とすの忘れそうだから全然やってなかったんだよね。まあマスクで顔を隠すし眉毛だけ描くか位。折角だし、買ってから一回も使ってないリップでも使おうかな。意外とメイクが手こずり、1時間位経っていた。こんなにマスカラ塗るの難しかったっけ? ちなみに眉毛は秒で終わった。そこまで準備が出来たら、黒いキャップを被る。うん、これで準備OK。私はスマホと財布だけショルダーバッグに入れ、スニーカーを履いた。

 準備をしているうちに、外はだいぶ明るくなってきた。この辺は学生も多いが、近隣に小学校があるため、公園に向かう子供たちもちらほら見かけた。まあ、わざわざこの時間に積極的に活動する大学生は少数派だろう。だって、9時に始まる1コマ目ですらギリギリの人がいるし、私も普段の休日は9時過ぎまで寝てる。

 こんなに早起きしたんだし、折角なら隣の市くらいまで歩いてもいいかもしれない。それで適当なタイミングで昼ごはん食べて帰ってくる。我ながら完璧なプランだ。私は常日頃気になる場所を地図上で探しているので何となく地理は分かるし、どの方向に進んでも行きたい場所のどこかには着くだろう。とりあえず、普段大学に行くときは使わない方向に進むことにした。

 大学まではやや坂道があるが、こっち側は平坦だ。いや、もしかしたらあの坂道に慣れすぎてちょっとした上り坂は上り坂と認識していないのかもしれない。大学側は大学生が利用するような食堂やスーパーとかあったけど、こっちはほぼ何もない。強いて言えば畑があるくらい。のどかな田舎って感じ。ただ、こっちの方向には隠れ家的カフェがあるらしい。ネットですぐに出てきた情報だから隠れているかどうかは謎だけど。ただ、普通の古民家みたいな佇まいだから、車で行くと通り過ぎるって口コミに書いてあったから隠れてはいるのかもしれない。

 永遠に続くのではないかと思う畑をやっと通り過ぎると、ぽつぽつと住宅が見え始めた。きっとこの辺の畑を管理している人が多いのだろう。コンビニですら車を出さないと行きにくい距離だし、自給自足がある程度できないとここに住むのは難しそう。そんなことを考えながら歩いていると、正午の音楽が流れ始めた。私の実家では17時に小学生が帰る頃のチャイムしか鳴らなかったが、ここでは正午と17時2回流れる。何だかんだで9時半過ぎに出たはずだから2時間以上歩いていることになる。そのことを自覚したからなのか、汗が出てきたことを実感する。あー、日焼け止め塗りなおさないとな。私は頭の中にこの辺のマップを描く。きっとあと10分しない内に古民家カフェがあるだろう。ただ、流石にカフェで日焼け止めを塗りなおす度胸はないし、正午となって紫外線も増えてくる。早めに塗りなおしたい。そんなことを考えながら歩いていると、すべり台とブランコしか遊具がない公園を見つけた。ベンチもさほど汚れてないし、ここで座って塗りなおそう。私は何となく足早にベンチに駆け寄った。

「ふぅ~」

 ずっと歩きっぱなしだったからか、今までの疲労がベンチに流れていくような感覚を感じる。というか、結構疲れていたんだな。しばらくこのままでいたい。しかし、子供が来るかもしれないので今のうちに日焼け止めを塗りなおしておこう。私はショルダーバッグを探すと、

「あ、忘れてきた」

 思わずつぶやく。周りに子供が居たら不審者と疑われるだろうが、今はいないからセーフ。いつもならスマホは忘れても日焼け止めだけは忘れないのに……。しかし、この辺にコンビニエンスな店はない。店は精々無人販売で野菜を売ってる位だ。うーん、どうしようか。しかしここで考えていてもどんどん紫外線にさらされるのみ。しょうがない、とりあえずカフェに避難しよう。そこで考える方がいい。

 私はベンチから立ち上がりカフェへ向かった。

 

 おそらくここだろうという場所は見つけた。しかしすごく入りづらい。一応看板はあるし、流石に普通の人ならそんなに車を持ってないだろうと感じる車も停まっているし、ここであることは確かだ。しかし、内側が全く見えない。一般的な洋風に近い家というよりは田舎にありそうな平屋って感じ。でも、内側が見えない。せめてメニューが看板に書いてあればいいけど、それもないからちょっと怖い。口コミサイトでは2000円以内って書いてあったけど、あまり口コミ自体は載ってなかった。ただ、停まっている車に私が知ってるような高級車はないし、多分大丈夫だろう。そう高を括って私はドアを開けた。

 中は、昭和モダンという感じだった。何だか懐かしい。ほっこりするようなオレンジ色の電球と重厚なダークブラウンの床が印象的だ。席数は座敷にある4人くらい座れるテーブルと、カウンター6席のみで常連さんが居そうな感じ。実際、カウンター席は既に4席埋まっており、テーブルも先客がいた。こちらに気付いた店員さんに1人だけど入れるか尋ねると快くカウンター席に案内してもらえた。メニューに目を通すと、サンドウィッチやホットドッグ、コーヒーや紅茶などが並ぶ。どうやらランチ限定でランチセットもあるらしい。これにしてみようかな。主食とサラダ、デザート、ドリンクがついて1400円ならまあちょっといいランチだろう。主食とドリンクは選べるけど、何にしようかな……。まあドリンクはコーヒーでいいだろう。主食は卵サンドで。メニューの写真が美味しそうだったから。店員さんを呼んで注文する。待ち時間、私は店内を観察する。私が案内されたカウンター席は、一番入口から遠いところだった。オープンキッチンなので、調理しているところがよく見える。どうやら、ここはシェフの方と店員さん1人で切り盛りしてるっぽい。シェフの方も店員さんも40代位だから夫婦なんだろうか? そんなことを考えているとお客さんはいつの間にか減って私を含めて4人になっていた。私みたいに1人で来ている40代位の女性と2人で話し込んでいる20代後半位の女性。40代の方は常連なのか、すごく店の雰囲気に合っている。キリっとした眼鏡姿からキャリアウーマンを連想した。20代後半位の女性たちは先ほどから子供の話や夫の話をしていることからお母さんなのだろうか。おしゃれに気を遣っているのがぱっと見でも分かった。

 人間観察をしているとあっという間に時間が過ぎ、サラダが運ばれてきた。レタスと紫キャベツ、トマトと色鮮やかだ。胡麻ドレッシングが掛けられており、電球のせいかお皿のおかげか家で食べるサラダより食欲をそそる見た目だ。いただきます、と小さく呟き、一口食べると生野菜のシャキシャキ感と胡麻ドレッシングの濃厚さがそれぞれ引き立てあうように口の中に広がった。胡麻ドレッシングは自家製なんだろうか、胡麻の香りが強めなのが嗅覚を刺激する。サラダを満喫すると、少しして卵サンドが出てきた。卵サンドは厚焼き卵が具材になっており、すごくボリュームがある。持つとしっかりした重量感を感じた。間近で見ると更に厚焼き玉子のぎっしり感が伝わってくる。これは、上品さを捨ててでも大口を開けてかぶりつきたくなる誘惑に駆られる。私はどうしてもその誘惑から逃れられず、一応周りの目を気にして誰もこちらを見てないことを確認してから思いっきりかぶりついた。じゅわっとひろがる出汁の味と卵のほんわかした甘味、アクセント程度まで抑えられたマスタードの辛味。この時代に生まれて良かった。昔だったら食べられない卵サンドがこうして食べれるから。そこまで感じさせるほどのサンドイッチだった。そこそこ胃の容量が大きいこともあるが、私は卵サンドもペロリと食べ切った。あとはデザートとコーヒーだけだ。ふと卵サンドの余韻から現実世界に帰ってみると、もうお客さんは私だけだった。私が入店したのは13時前後だし、14時位にラストオーダーならお客さんは来なくてもおかしくない。デザートとコーヒーをワクワクしながら待っていると、クッキーのようないい匂いが漂う。どうやらデザートはチョコチップスコーンのようだ。拳より一回り小さい位の大きさでチョコチップが所々見えている。こんがりしたきつね色がとてもきれいだ。その後すぐにコーヒーが運ばれてくる。デザートと一緒ならホットコーヒーでしょ! と思って頼んだが正解だったようだ。これは絶対合う。ただ、これは手づかみで食べていいのだろうか? それともフォーク? 少し悩んだが、やや硬そうだし手でいいや。口に入れると、さっくりした表面とは裏腹に中はしっとりしていた。いつも思うんだけど、外サク中ふわみたいなのって作るの難しくない? 頭の中で問いかけてももちろん誰も答えてくれない。チョコチップもそうだけど、スコーンの生地自体も甘いから、コーヒーは無糖でもいけそうだ。スコーンとコーヒーを代わるがわる味わう内に終わってしまった。ここのお店美味しかったな。歩くと3時間弱かかることが分かったけど、電車を使えば1時間かからないで着きそうだし電車使ってまた来ようかな。お会計をしてお店を後にする。時間は13時半少し過ぎた位。この時間なら歩いて帰ろう。しかし何か忘れているような……。

「あ、日焼け止め!」

 こうなったら仕方ない。電車で帰って少しでも日に当たる時間を短くしよう。私は徒歩で20分かかるだろう駅まで歩いた。

 駅前にコンビニがあったため、やや痛手だが日焼け止めを購入した。これで歩いて帰るという選択肢も出来たけど、この駅から家までだとちょっと遠いんだよなあ。道もあやふやだし。調べればいいんだけど、充電も心もとない。ということで、電車に乗って帰るのは変えないことにした。切符を買って駅員さんにはんこを押してもらう。交通IC系のカードは使えるが、基本的に切符は駅員さんに見せるか、そのまま通過する方式だ。初めは驚いたけど、今はもう慣れた。運よく、5分後に電車が来るので私はそれに乗ることにした。駅にはそこまで人がいなかったため、これなら座れそうだ。ずっと歩いていたから正直足がパンパンだし、出来れば座りたい。電車が来ると、こちらも空いており、簡単に座ることが出来た。

「ふぅ」

 つい声が漏れてしまう。まあ、隣に人がいないし車内には聞こえてないだろう。暑いくらいの日差しが降り注いでいるので寝ることもなさそうだ。電車の独特な揺れに身を任せているとあっという間に私の最寄り駅に着いた。まあ、ここから20分歩くんだけどね。改札口に駅員さんがいるので切符を渡す。この駅は大学生の利用者が多いのか降りた人はほとんど私と同じくらいの人だった。

 家に向かって歩き出す。そういえば今日の夕ご飯、スーパーで何か買っておいた方がいいかな。一応鶏むね肉とキャベツはあるけど。あ、でも今日はエコバッグ持ってきてないしそれで済ませればいいか。私は真っ直ぐ家に帰ることに決めた。

 駅から家までは見慣れた風景で代わり映えしなかった。強いて言えばセミの鳴き声がうるさかったことが印象的だ。鍵を開けるとどっと疲れが出てくる。ただ、この疲れはテストのそれに比べると全然ましだ。ぐーっと伸びをして絨毯の上に座る。久しぶりに体を動かした気がする。

 次に行くところも決めないとな。私は充電器に繋がったスマホで地図アプリを開きつつ、新しく気になるところを探し始めた。

 

     *     *

 

あとがきというか追記というか

 

 こちらの話は、朗読用の文章を作成してほしいとの依頼により書かせて頂きました。特に相手方からの大きな希望もなく、また朗読用の文章を書いたこともなかったため、手探りで書いたのを覚えています。

 こちらは朗読を意識して(?)登場人物を一人にしましたが、次回更新の話は自由気ままに書いたものです。どちらかというと物語寄りですが、ぜひご覧頂けたら幸いです。

 

Yu

自己紹介

はじめまして。

富山県立大学文芸サークルです。

ここでは、主に部員の作品紹介や活動報告について書いていきたいと思います。

よろしくお願いいたします!

ここから先は、文芸サークルの紹介です。
興味がある方はぜひ目を通して下さい。

【活動内容】

・年に1回、顔合わせ&大学祭に出す部誌のテーマ決め(毎年テーマが変わります)
・大学祭まで(例年9月前後締め切り)に各々執筆、描画
・大学祭で部誌の発行
また、文芸サークルに関係あることなら新しく活動に取り入れることも可能です。(詳しくは部長に相談してください)

【募集人材】

・小説を書きたい人
・絵を描きたい人
・小説を読むのが好きな人

*上手い、下手ではなくやりたい人好きな人を募集しています!

近々、体験入部を含めた顔合わせを行う予定のため、興味がある方はぜひお越しください。
予約などは不要です。
もし都合が合わないようでしたら連絡頂けたら、調整します。

 

ご覧頂きありがとうございました!

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